〈「春画」について〉
「春画」と聞いて、皆様はどんなイメージを持たれるでしょうか?
“江戸時代のエロティックな浮世絵”といったところでしょうか?もちろん間違いではありませんし、特徴をとらえた的確な表現かもしれません。しかしながら「春画」について調べてみると、それだけではなく、その芸術性や文化的価値の高さに驚かされることが多いのです。
「春画」はある特定の浮世絵師によって描かれたものではなく、菱川師宣、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎、渓斎英泉、歌川国貞、歌川国芳といった多くの一流の絵師たちによって制作されました。
「享保の改革」以来、テーマや色数といった規制を受けることもあった浮世絵ですが、「春画」は規制が厳しくなるとアンダーグラウンドで制限を受けることなく制作され、一流の浮世絵師たちは存分に自分の画才を発揮し、彫りや摺りにも超絶技法を競い合いました。そのため「春画こそが浮世絵の頂点である」とも言う説もあるくらいです。
その芸術性はピカソをはじめヨーロッパの画家やジャポニズムにも大きな影響を及ぼしました。デフォルメされた表現やありえない構図は、従来の固定概念を超えたものであったようです。
「春画」はまた、江戸時代の人々の生活ぶりや価値観、文化を知るうえでも重要な役割を果たしています。
男女混浴が当たり前であった江戸時代、人々にとって男女の裸は珍しいものではなく、性に対しての考え方も、今よりももっと大らかでオープンであったようです。
大きく誇張されて描かれた男性器は子孫繁栄に繋がるものとして、また男女の交わりはおめでたいものとして捉えられていました。嫁入り前の女性や新婚夫婦にとっては性の教科書としての役割も担っていたとされています。
また、描かれている着物や髪形を見れば、当時の流行を知ることもできますし、登場人物の人間関係や状況について推し量ることができます。
一枚の作品から、江戸時代の文化や人々の価値観、流行や暮らしぶりまでも感じることができるのも「春画」が持つ素晴らしさなのです。
性が開放的な時代に、満ち足りた愛と性の喜びを「男女和合」という概念で大胆且つ繊細に表現したものが「春画」なのではないでしょうか。
会場には肉筆、錦絵(多色摺版画)の一枚ものから12枚セットの組物、春本といわれる版本の各種、手のひらサイズの豆本判も揃えました。
少々刺激的な表現の作品もございますが、芸術的・文化的な価値を感じながら、江戸時代の人々同様、大らかな気持ちでご覧いただけましたら幸いです。